「これお願い!」の一言が言えない方は多いのではないでしょうか。
上司から部下に対して、同僚同士、他事業部のスタッフに対して、様々な人間関係の中で「依頼」は発生します。依頼ができない理由は様々ですが、依頼自体ができないと、仕事が進みにくくなってしまうリスクがあります。そのリスクは、積み重なれば大きな組織課題にさえなってしまいます。人に任せられないことは大きな問題なのです。
しかしながら、少しのポイントさえ押さえてしまえば、人に任せることは簡単です。
本記事では、なぜ人に任せることができないのかについて理解するとともに、人に任せる際のポイントについて整理します。
この記事でわかること
・人に任せられない理由がわかる
・人に任せるための方法がわかる
この記事を書いた人

古川賢人 事業開発.com編集長/株式会社イフビズ代表取締役
事業家、起業家。ベンチャー企業創業および事業開発〜運用、大企業での事業開発〜運用まで経験。世界的経済誌Forbesにてアジアで活躍する30歳未満のリーダー人材(Forbes 30 Under 30 Asia 2021)として選出された他、グッドデザイン賞、日本ギフト大賞、ACC等受賞経験あり。事業開発人材=事業家の働きやすい環境作りや事業家育成が企業成長及び経済成長の鍵と考えている。
なぜ人に仕事を任せられないのか


仕事を人に任せることが難しいと感じる理由は多岐にわたります。以下に、よくある理由を解説していきます。
人に任せるのが怖い
時に人は、自分が担当している仕事を他人に任せることに不安を感じます。この不安の原因は、他人が自分と同じレベルで仕事をこなせるかどうかに対する疑念です。
また、他人に任せることで、自分のコントロールが失われるという恐怖もあります。
依頼先への信頼感がないためにこのような恐怖心を感じてしまうのです。
人に任せると結果がでない気がする
仕事を他人に任せることで、期待通りの結果が出ないのではないかという懸念もあります。
特に、自分がその分野で高いスキルを持っている場合、この懸念は強くなります。結果が出ないことによる責任も、自分が負うことになるため、リスクを避けたいという心理が働いてしまうことでしょう。
相手の能力がわかっていると、その能力以上のことを依頼する際には、特に懸念に感じてしまうのです。
人に任せるとスピードが落ちてしまう
他人に仕事を任せると、プロセスが遅くなると感じる人もいます。自分でやった方が早いと考えることで、他人に任せることをためらってしまうのです。
一回限りの仕事であれば、その考えでも問題ないかもしれません。ただし、複数回発生するような仕事であれば、結果的に自分で仕事を抱え込むことは効率が悪いものです。スピード感は短期ではなく中長期で考えると、手放してしまった方が早いケースも多々あるのです。
忙しいことを理由にしている


忙しさを理由にして、他人に仕事を任せることを避けるケースもあります。
忙しいと感じている時ほど、他人に任せることが重要ですが、逆に「自分でやった方が早い」と思い込んでしまいがちになります。猫の手も借りたい状況でも、自分でやることを優先してしまうのです。
教育することへの懸念
他人に仕事を任せるためには、適切な指導と教育が必要です。しかし、教育の仕方がわからない、あるいは教育に時間がかかると思い込んでいると、他人に任せることを躊躇します。
仕事のルールや方法論を教えることが面倒だったり、教えたとしてもできるようになるかは分かりません。このような理由から教育するくらいなら自分でやってしまおうと考えてしまうのです。教育は初期投資がかかりますが、長期的には大きな成果を生むという観点が不足しているケースです。
人に仕事を任せられない心理


説明してきた理由の背景には、仕事を人に任せることができない様々な心理的要因が存在します。
以下に、代表的な心理的要因を解説します。
自分の方が優秀という思い込み
自分自身が他人よりも優れているという思い込みは、仕事を任せることができない大きな要因の一つです。自分が最も適任だと信じることで、他人に仕事を任せることが難しくなります。
もちろん、スキルセットの必要な専門的職能を活用するような仕事内容では、この理由も一理あります。ですが、例えばエクセルを活用したデータ処理や、プレゼン資料の作成のような一般的な業務であれば、任せてしまった方が結果的に効果は高かったりします。
コラム:企業の人材レベル
企業内の人材レベルは、同じ入社試験を突破してきた人々で構成されるため、均質化しやすいです。本当に天才的な人というのは極々稀な方になりますので、大抵の場合、同じ企業の方は同程度の地頭を有していると考えてください。
もちろん社歴やこれまでの経験によっては能力は異なりますが、「あなたにできたことは他の人にもできる」と考えてしまった方が、依頼する時のハードルが低くなるはずです。
楽をしているという思い込み
他人に仕事を任せること自体が、自分が楽をしているという思い込みも、任せられない理由の一つです。この心理は、責任感が強い人に多く見られ、自分が仕事をすることが正しいと感じてしまう傾向があります。
仕事は本来的に成果ではかられるものです。成果を上げるための手段は様々ですが、その手段として「自分で対応する」ことを優先しているわけです。そのため、成果を目的においたときに、感情的な理由である「楽かどうか」は仕事には関係ないはずです。
コラム:経営層の仕事は楽なのか
人に依頼することが楽になる場合、多くの経営層は楽をしていることになります。しかしながら、経営層の仕事内容は困難なことばかりです。未知の課題やトラブルへの対応だけでなく、事業の成長曲線を描く必要かあるからです。
経営層は部下たちに仕事をどんどん振っていきます。それは楽をするためではなく、成果のために依頼する必要があると知っているからなのです。
タスク処理の達成感を味わいたい


仕事を完了させることによる達成感は、自己満足感を高めます。そのため、他人に仕事を任せることでその達成感を味わえなくなることを恐れる心理が働きます。自分で仕事をすることで、達成感を得たいという欲求が強くなるのです。
そのタスクをこなすことに人生をかけるのであれば自分でやってしまって良いと思います。ですが、あなたが依頼できる立場にいる際のキャリアを考慮した時に、そのタスクの達成感を味わうことがどれだけ優先事項かは今一度考えたほうが良いことではないでしょうか。
完璧主義である
完璧主義の人は、自分が納得する水準で仕事を完成させたいと考えます。このため、他人に任せると完璧な結果が得られないのではないかという不安が生じます。完璧を求めるあまり、他人に仕事を任せることができなくなるのです。
ただ、ひとつ考えて欲しいことは、完璧な仕事とは何かということです。受験問題のような正解のある問題ではないわけですから、100点満点のような完璧は仕事は、構造的にあり得ません。完璧でなくて良いと考えることができれば、仕事を人に任せることができるようになるかもしれません。
人に任せる際のポイント


ここまで人に仕事を任せられない理由について記載してきました。続いて、仕事を人に任せる際の重要なポイントについて具体的に見ていきましょう。一つ一つの内容を実践することで、人に任せることに慣れていけるはずです。
相手を気遣わない
仕事を依頼する際に最も大切なのは、相手を過度に気遣わないことです。
相手の保有する仕事量やスキルを考えて、相手に合わせた形で依頼をすることをやめてみましょう。
依頼して対応できない場合は相手が信号を出すので問題ない、と筆者は考えています。仕事を依頼して相手がパンクしそうであれば「パンクしそうです」と言ってくれるはずです。
ただし、相手の性格上、断ることが苦手な場合は注意が必要です。断るという行為をせず、結果的に完遂できなかったという結果が返答される可能性があるからです。そのような懸念がある相手には、依頼時に「パンクしそうであれば言ってください」と明確に伝えましょう。
仕事はコミュニケーションの上で成立しますので、依頼時に双方で認識が合うようにできれば、気を遣う必要はなくなるのです。
コラム:相手への尊敬は忘れずに
相手への気を遣わないと言っても、相手を蔑んだり、下に見るような行為はしてはいけません。対人関係において尊敬なくして仕事をすると、ギクシャクした雰囲気が醸成され、結果的にコミュニケーションロスが発生する可能性が高まります。また、信頼醸成できないことは、仕事においてマイナスしかありません。
気を遣わないことは、お互いに、ストレートでクリアなコミュニケーションを心がけることです。
相手の成長になると考える


タスクをこなすことで人は成長します。たとえそれが難易度の高いものであっても、人は壁を越えることで前進できます。人に仕事を任せることができない場合、相手の成長機会を奪っている可能性があるのです。
依頼は相手の成長のためと思うようにすれば、頼みやすくなることでしょう。
相手の成長を考えると、多少難しいタスクでも依頼がしやすくなるはずです。相手に対して、自分の枠を超えてもらうために任せるという意識を持ちましょう。
「期限」「目的」「成果物イメージ」を伝える
仕事を依頼する際には、明確な「期限」「目的」「成果物イメージ」を伝えることが重要です。これにより、相手が何をいつまでにどのように行うべきかを理解しやすくなり、効率的に仕事を進めることができます。
依頼で発生しがちなディスコミュニケーションは、期限を間違えていたり、目的を間違えていたり、成果物が思ったものと違ったり、認識齟齬によって生じます。依頼時にしっかりと「期限」「目的」「成果物イメージ」を相手にわかりやすく伝えることを意識してみてください。
人に任せる怖さや、結果が出ないことへの不安が払拭できます。
コラム:仕事において重要な「見える化」
見える化することは、暗黙知を形式知に変える作業です。人間は視覚動物ですから、目から得られる情報を脳で処理することに長けています。そのため、タスク内容を目で見えるようにすることが非常に重要です。
この見える化は、依頼時以外のあらゆる場面で役立ちます。プレゼンテーション資料は目で見えるものですし、決算書や事業計画書などの重要書類も見えるものです。「見えるようにする」ことを心がけることで仕事が進めやすくなります。
こまめな報連相の徹底を依頼する
報告・連絡・相談(報連相)は、仕事を任せる際の基本です。定期的に進捗を報告させ、問題が発生した場合にはすぐに相談できる環境を整えることで、仕事の進行をスムーズに行うことができます。これにより、トラブルを未然に防ぎ、認識齟齬をなくし計画通りに進めることが可能です。
依頼してから完了までの間に中間報告の時間を設けるなど、相手がやりやすい方法で仕事を進めましょう。
また、報連相を行うことで相手とのコミュニケーション回数が増えるので、相手の特性や、意思疎通の仕方もわかってくることでしょう。細かいコミュニケーションは相手との信頼構築に役立つのです。
「任せるという仕事」という意識を持つ
仕事を任せること自体が一つの重要な仕事です。任せることで、他人の能力を引き出し、チーム全体のパフォーマンスを向上させることができるためです。
任せる際には、きちんとコミュニケーションを行い、適切なフィードバックを提供しましょう。相手の成長を支援する姿勢は、相互理解にきっと役立ちます。
依頼が難しい場合の追加でできる具体的な方法


今までのポイントを行っても、仕事を人に任せることが難しいと感じる場合は、さらに以下の練習方法を実践してみましょう。
スモールステップで任せる練習
最初から大きな仕事を任せるのではなく、小さなタスクの依頼から始めてください。
徐々に任せることに慣れていくことができます。スモールステップで任せる練習を重ねることで、自信を持って大きな仕事も任せられるようになります。
フィードバックの活用
任せた仕事に対するフィードバックを適切に行うことは、相手の成長を促すだけでなく、自分自身の「任せることに対する不安」を軽減する効果があります。
ポジティブなフィードバックと建設的なアドバイスを組み合わせて行いましょう。
お互いに相手の顔色を伺うのではなく、依頼内容について真剣に会話しましょう。また、「依頼の仕方」自体へのレビューを実施することで、その後の依頼方法が磨かれていきます。
信頼関係を築く


任せるためには、相手との信頼関係を築くことが不可欠です。「相手のことがわからないから依頼できない」という状況なのであれば「相手を知ることで依頼できるようにする」と考えるのです。
信頼は一朝一夕には築けませんが、日々のコミュニケーションや小さな成功体験を共有することで、徐々に強固な信頼関係を築くことができるでしょう。
コラム:接触回数における親密度の向上
接触回数が多いほど相手への好感度や親密度が上がると言われています。例えば、あまり好きではない顔の役者をテレビドラマで見たとして、ドラマが最終回に近づくころには愛着が湧いているケースがあります。
大悪人や考え方を受け付けることが難しい人のようなイレギュラーのケースを除き、接触回数が多いほど、愛着が湧き親密度は向上するのです。
チーム全体の目標を共有する
仕事を任せる際には、個々のタスクだけでなく、チーム全体の目標を共有することが重要です。チームの目標に対する理解を深めることで、任せる側と任せられる側の意識が一致し、よりスムーズに仕事を進めることができます。
仕事はチームで行います。チーム意識の醸成が、「仕事を任せること」を推進させるのです。
まとめ
人に任せることの課題から解決方法まで記載してきました。
全てを試す必要はありませんが、自分にとって重要な対応策を実施することで、苦手意識を克服してみてください。
自分で抱え込まず、人に頼る意識は、決して悪いものではありません。人に任せることができると、仕事の進め方がとても楽になるはずです。